住職雑感

 それなりに幸せに
妙福寺は人生相談のお寺です。悩みは十人十色ですが、幸せになるために、誰もが必死の思いで生きています。
 夫婦や子育ての問題で、相談を受けることも少なくありません。ひとがたった一人で幸せになるのはとても困難であり、人生において人間関係の悩みはとても重要です。
 良好な対人関係が築かれている時には、「オキシトシン」という幸せホルモンの一種が分泌されてストレスを緩和し、幸せな気分をもたらしてくれるのだそうです。孫を抱く時やペットと触れ合う時等々、この幸せホルモンが出て元気になれるのです。
ヨーロッパのある大学の調査結果によれば、孫や他人の世話をしている高齢者は、しない人よりも長生きする傾向にあるのだとか。スキンシップを大切にすることで、幸せホルモンが活性化して心のバランスが整えられ、無意識に心のケアをしているのだと考えられています。
幸せとは人生に満足することであり、健康や経済や対人関係に満足することです。自分の満足はもとより、周囲の人たちの満足も思いやる心を育みたいものです。

 思いやり 絆 それなりの幸せ
日本人は思いやりの心に富み、自分だけの満足に止まらず、周囲の人々とともに幸せになることを望むことの出来る世界に比類なき民族です。一方、幸福を感じる度合いが少なく、それに伴って自殺する人の数が、先進諸国の中では高い数値であるということも忘れてはならない事実です。
 昨年二十二年ぶりに国内の自殺者が二万二千人を下回りました。「改正自殺対策基本法」により、全国の自治体による自殺防止の取り組みが強化された効果だといわれています。
 そんな中、全国でも自殺者の少ない地域には、人間関係が疎にして多≠ニいう共通点があるそうです。お付き合いはあいさつ程度でマイペース。しかし顔見知りが多く孤立は起きにくいというものです。
人は、家族や同僚など身近な人間関係に苦しむことが少なくありません。一方、たまに会う人や違う価値観の持ち主の言葉に触れて、希望を取り戻すこともあります。何気ない出会いでも、人との絆を大切にしていれば、いつか大きな救いになるのかも知れません。

 困難に鍛えられる
 今年の1月に行われた全日本卓球選手権の女子シングルスに於いて、十六歳の高校生平野美宇選手が、史上最年少のチャンピオンに輝きました。
 同級生の伊藤美誠選手の活躍などで団体戦銅メダルを獲得したリオ五輪に帯同しながらも試合に出場することが出来ず、心底悔しい思いを味わい、その後の猛練習によって培われた卓越した技術と強い精神力によって勝ち取った、見事な栄冠でした。若さゆえか発言が少々強気過ぎるようにも感じますが(笑)
 何事も便利になって、少しでも楽に良い結果を得ようとして、誰かの書いたマニュアル通りに事を運び、もし失敗しても自分の責任とは感じない、そんな風潮の世の中になったように感じます。
アスリートでも一般の庶民でも、夢や目標に向かって必死に努力する人たちが、実は意外に大勢いるものです。夢を実現するのはとても難しく、だからこそ、叶えた時の感動は格別なのでしょう。 

 こころをささえる
音楽家やスポーツ選手など、著名人の違法薬物依存のニュースが相次いで報道されました。ファンの期待に応えるため、極限の状態の中でも常にベストパフォーマンスを発揮しなければならない彼らは、想像を絶するストレス(精神的圧迫感)に苛まれ続け、押し潰されてしまったのでしょうか。いずれにしても彼らの犯した罪は、広く社会に衝撃を与え、青少年にも悪い影響を及ぼすもので、断じて許されるものではありません。
人が生きるということは、同時に自分以外の人々にも何らかの影響を及ぼしているということでもあります。互いに影響し合う力は、時に生きる支えとなり、また一方では大きなストレスとなって自他の心身をむしばむことにつながることもあります。
価値観や人生観の違う人間同士が、円満に係わり合い、それぞれが心平安に生きていくためには、自ら努力するだけでは甚だ困難であると思います。
ストレス多き現代人にとって、人智を超えた御本仏様・諸天善神への信仰を人生の鏡や杖とすることは、とても重要であり、また必要なことであると考えます。

 生きることの意味 生きてることの重み 
歌舞伎役者の市川海老蔵さんの妻小林麻央さんのブログが注目を集めています。
 小さな子供を抱えながら進行性の癌と闘う心情を吐露したもので、日々ワイドショーなどで取り上げられています。同じような経験をした人や今まさに困難な病気と闘っている人たちにとって、彼女のひたむきに生きる姿が大いに勇気を与えているのでしょう。
 麻央さんの試みは、世の中で必死に難病と闘いながら生きている人の、なんと多いことかということを広く世間に知らしめる機会ともなりました。
さらには乳癌等の危険に関心が向けられ、女性は三十代から四十代にかけて急激に発症率が高くなることなどがよく知られるようになりました。これを機に、今までなおざりにしていた検診を受け、病を水際で食い止められる女性も増えて来ることと思います。
自らの身に降りかかった災難を受け止め、生命ある限り希望を持って、一日一日をかけがえのない思いで生きる麻央さんや多くの難病と闘う人々が、一人でも多く御本仏様・諸天善神の神秘の御加護に触れて健康を取り戻されることをお祈りするばかりです。
そして、小衲自身も出口の見えない不幸や災難にさいなまれている人たちに対し、御題目の信仰を知ってもらい、一人でも多く神秘の御加護に導いていかなければならないと思いを新たにした次第です。

 男の美学?
 映画『男はつらいよ』シリーズのフーテンの寅さん役で有名な俳優の渥美清さんが亡くなって、早や二十年になるそうです。
 日蓮宗の柴又帝釈天(葛飾区 題経寺)が舞台のこの作品は、とても親しみ深く、特に寅さんと甥の満男とのやり取りからは、たくさんのことを教えてもらいました。
ある作品の中で、いつものように恋に破れて旅に出ようとする寅さんを、中学生の満男が柴又の駅まで送っていく途中の会話です。
 
 満 男(下を向いてボソッと)
   伯父さん、人間は何のために生
   きてるのかな?
 寅次郎(遠くの空を見るように)
   そうだなぁ、時々生きてて良かったなぁと思うことがあるだろう。そんな時のため   に生きてるんじゃないのかな。大丈夫、お前にもいつかそんな時が来るから。

何かとつまずきが多く、周囲の大人からも理解してもらえない甥の悩みにしっかり向き合い、自分の経験から必死に言葉を紡ぎ出して伝えようとする寅さんの優しさが伝わって来ます。
 何のために生きてるのかなんて分かるはずはないけれど、自信は無くても自分らしく精一杯生きてさえいれば、必ず自分なりの幸せが見つかるはずだ。≠サんな思いを伝えてくれた寅さんには、今でもずっと素敵な大人を感じています。

 ほとばしる信仰の光
全国から参集した人々の菩提心が結集し、たゆまぬ光の川となって、お祖師さまのもとへ、勢いよく登って行きます。

 聖地にて
身延山にお参りしています。例年の輪番奉仕も無事に終え、改めてお祖師さまの魂に触れることの出来た感激に浸っております😌

 ふるさとのほまれ
 この夏の甲子園大会で、作新学院が五十四年ぶりの全国優勝を成し遂げました。作新学院卒業生や関係者の方々に、心よりお祝い申し上げます。
 前回の春夏連覇の時には、小衲はまだ二歳でしたのでもちろん記憶にありません。栃木県の代表が優勝するという体験は、今回が初めてです。
これまで群馬・茨城・千葉は、それぞれ複数回優勝していたにも係わらず、栃木だけ優勝がないというのは、近県に対して自分勝手に肩身の狭い思いを抱いておりましたが、実に爽快に溜飲が下がりました。
これが我が母校であったなら・・・と、思わぬこともないではありませんが、叶わぬ贅沢は夢の中に置いておいて、栃木の代表として栄冠に輝いた作新学院に便乗させていただき、喜びを分かち合った次第です。
思えば同じ作新OBの萩野公介選手の金メダル獲得など、リオデジャネイロオリンピックでも栃木出身の選手の活躍が目立ち、嬉しさと誇らしい思いで日本代表選手を応援することが出来ました。
親離れ・家離れ・墓離れ・故郷離れ等々自分が寄って立つ人生の根っこの部分をないがしろにする風潮が気になる此の頃ですが、生まれ育って人間性を育んだ故郷の存在は、あらゆる面に於いて頼もしく、とても温かいものだと感じます。

 いのちの重さ
先月末に、神奈川県の知的障がい者の施設で、恐ろしい大量殺傷事件が起きました。容疑者の元職員の二十六歳の男性にどんな心の闇があったのかは、知る術がありません。
昨今は、止むに止まれず事件を起こしてしまうというよりも、只々身勝手で衝動的な犯罪が多いように思います。
また、犯罪に限らずとも、社会全体の秩序よりも自分の都合や感情を優先させてしまいがちな風潮は、この数年徐々に広まって来ているように感じます。 
 人は生まれつき、誰もがそれぞれに強い個性を持っています。個性を伸ばすことは、優れた面においては必要ですが、現実の多くの場面では、むしろ個性を自制して、自分の属する家庭や学校や職場などに上手く適応していくことが必要とされます。そして、社会性や協調性というものは、物心つく前からの正しいしつけや教育でのみ身に付くものだと思います。
社会の色々な場面において、個人個人の個性を生かしながら、優位にあるものが弱者を労わり、互いに助け合って生きるのが理想の平等な社会でありましょう。お互いに思いやり合って生活出来る社会になれば、悲惨な事件も減少するのだと考えます。