住職雑感

 新年を迎えて 令和3年1月
 新しい年を迎え、皆さまのご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。困難の時こそ御題目にすがって、粘り強く負けない人生を送りましょう。更なる信行増進をお祈りいたします。
 さて、今年は辛丑(かのとうし)の年です。昨年の庚子(かのえね)の年は、何かが終わって改まり、何か新しいものが始まる年になりそう≠セと予測しましたが、世界中がコロナ禍により従来の当り前の価値観が大きく揺らぎ、生活習慣の変化を強いられた一年でした。
多くの会社や商店が経営不振となり、仕事を失い今後の見通しが立たないままに年を越された人も少なくありません。すべての人々が、マスクの着用を義務付けられ、人との触れ合いや会食の自粛をも強いられ、楽しいはずの帰省が罪悪視されたりと、腑に落ちない思いを抱いたまま今に至っています。人類は大きな危機に陥っていると言っても過言ではないと思います。
辛は昨年の庚と同じ金性で似たような要素を持ち、植物の成長過程に例えると、辛は草木が枯れて新しくなろうとする状態であり、丑は種から芽が出ようとする状態を意味します。
 今年は、日々の為すべき事々の中に、昨年から続く大きな課題をしっかりと見つめ、時には従来の価値観の終わりを受け入れ、時には新しい生活習慣の始まりを進めて行くような、そんな年になるのではないでしょうか。
そして何よりも、世界中が心ひとつになって、好い世界・佳い一年にしようという思いを共有することが大切だと考えます。
 

 ウィルス感染も歴史の必然? 令和2年12月
文明が発達し、人間が密集して暮らす都市が誕生し、やがて遠く離れた地域と交流する“グローバル化”が生じると、その副作用として感染症の流行は避けて通れないのだそうです。
 ヨーロッパの全人口の3分の1が死亡したペスト、アステカやインカと云った中南米の国々が滅んだ原因とされる天然痘、幕末に日本でも大流行したコレラ、世界中で5000万から8000万人が亡くなったとされるスペイン風邪、長年不治の病であった結核や最近のSARSやMERS等々、私たち人類の歴史は、感染症との悲惨な闘いの歴史でもあります。
 科学的な感染症攻略の歴史は近代まで待たなければなりませんでした。
1700年代後半のジェンナーの「種痘」を先駆けとして細菌学が起こり、1800年代に血清療法が開発され、1900年代に最初の抗生物質ペニシリンが発見され、やがてストレプトマイシンという結核の治療薬が開発され、今日の様々な医薬研究に繋がっています。
 さらに、国家が発達し、行政によって衛生状態が改善され、人々の予防に対する意識が格段に進化するなどして、私たち人類は、過去の多くの困難な感染症を克服し、またウィルスや病原菌と上手く共存することで健康な社会生活を実現して来ました。新型コロナウィルスの感染も必ず収束します。必死に御本佛様に祈り、その時を待ちましょう。信こそが神秘を招く力です。

 頑張ろう! 愛する栃木県 令和2年11月
 ブランド総合研究所という民間の調査会社が行った地域ブランド調査による都道府県魅力度ランキング2020において、我が栃木県が初めて最下位に転落するという歓迎すべからざる事件が起こりました。
 これは、47都道府県と1000の市町村を対象に、認知度や魅力度・イメージなど84項目からなる調査結果で、今年で15回目。ちなみに有効回答者数は全国でわずかに31734人だそうです。
 これに対し、県知事が調査会社を訪ね、調査は本質を見逃していると抗議したとか。日本で最も魅力のない郷土に住むことにされた県民とすれば、知事ならずとも、口惜しい思いに駆られているのは小衲だけではないと考えます。
 栃木県には、世界遺産の日光国立公園、湯量も豊富で泉質も優れた那須・鬼怒川・塩原等の温泉があります。松島と喜連川も良き温泉です。食卓に欠かせない餃子。美味しい水とお米に野菜、そして柔らかく味に優れた牛肉や豚肉。お馴染みのレストランは、都会からのお客様方もうならせるレベルの高さです。甘味好きには和洋菓子もなかなかのものです。イチゴの生産量は昨年まで52年連続日本一、生乳の生産量は21年連続全国第二位です。大規模災害も殆んど無く、東京都心と1〜2時間ほどで結ばれている便利さも密かな自慢の種です。新宿からでも途中新幹線を利用すれば2時間少々で氏家の駅に着いてしまいます。
 まだまだ優れた魅力にあふれている郷土の良さを、県民一人一人がもっと再発見出来たらと感じます。

 時代を超えて熱いことは美しい 令和2年10月
 テレビドラマの日曜劇場『半沢直樹』シリーズが大人気で高視聴率を上げているそうです。銀行組織を舞台に、普段あまり知ることのない政治・経済・商業の世界が興味深くえがかれており、小衲も録画をして楽しみに観ています。
 五年ほど前、その同じ日曜劇場で、『天皇の料理番』というドラマが放映されていました。明治時代にフランス料理のシェフになることを志し、苦労の末に本場フランスで一流の料理人として認められ、やがて大正から昭和にかけて宮中で天皇陛下の食事を司る主厨長(しゅちゅうちょう)を長く勤められた秋山徳蔵さんの半生をつづった物語です。
 彼は、近代文明にようやく目覚めつつある日本人の中でも身体が小さく、何をやってもものにならないヤンチャな青年でした。初めてのカツレツとの出会いが人生を一変させ、料理の道にかじりつくように精進し、熱きプライドをもって外国人との肉体的ハンディや差別的いじめ等とも闘い抜き、実力主義のフランス料理界で立派に成功し尊敬される存在となったのです。
彼の成功の陰には、物心両面にわたる家族の辛抱強く温かい支えがあり、厳しい中にも思いやりあふれる師匠の真心があり、深く理解しあった妻の存在があり、心から尊敬しお仕えした貞明皇后や昭和天皇の尊いお人柄がありました。
登場人物それぞれの思いに胸を熱くし、毎回泣きながら観たものでしたが、先頃もう一度観る機会を得て、また温かく泣かされました。

 行き詰まる社会の責任はいずこに 令和2年9月
 中国の漢の時代から、「天人相関説(てんじんそうかんせつ)」という思想があります。国の有り様は、治める者の善悪と密接に関連しているのであり、悪しき事件や自然災害によって世の中が乱れるのは、国を治める者に徳が具わっていないからであると観るものです。
 そして、国を治めることが出来るのは、天(神・仏)の意思―天命によるのであり、国を治める徳を失ったもの者は、天命が革(あらた)まって治める力を失い、別の者が国を治めることになるのです。これが「革命」の語源だそうです。
 現今の我が国の有り様を観ると、今般の新型コロナウィルスは勿論、頻繁に打ち続く自然災害によって人々の生活は大きな打撃を被り、我が国の行く末に不安な雲が漂っていると感じさせられます。
 私たちは、困難にさらされると国や政治家に責任を押し付けがちです。しかし、日本は国民主権の国であり、天皇は国民の統合の象徴として存在しています。国を治め国の命運を握っているのは、実は私たち国民一人一人ということになるのです。
今の混沌とした時代に生きる私たちは、たとえ社会の片隅の小さな存在であろうとも、自分の考え方や行いの善悪が、自分の生活環境ひいては日本全体の幸不幸に直結しているのだと自覚し、自分の日々の生活の中から、いかにして社会を立て直すことが出来るかということに心を向けてみるべきだと考えます。

 暑いのとコロナのせいで精神世界に気が向きました 令和2年8月
 30年ほど前、アメリカの女優シャーリー・マクレーンの書いた『アウト・オン・ア・リム』という本が話題になりました。種々の神秘体験を通じて、本当の自分、神とつながる大いなる世界を見出す内容だったと思います。
彼女が誰かと裁判で争っていた時のこと。ふと、今執着していることは本当に自分に必要なことなのか、こんなに嫌な思いをしてまで手に入れたいことなのかという思いが湧いて来て、彼女はすべて相手の望むまま受け入れようと、裁判に負けることを決断します。すると不思議なことに、ほぼ同時に相手も彼女とほとんど同じような決断に至り、裁判は互いに相手を損ずることなく決着したのです。
人と人が互いに理解し合うには、先ず自分から迷いを払い執着を捨てることを行うべきなのだと感じさせられた思い出の本でした。

 必殺仕事人を観たので 令和2年7月
『必殺仕事人』が時代を超えて多くの人に愛されています。 
池波正太郎の小説『仕掛人・藤枝梅安』を元に数多く作成された「必殺シリーズ」は、もう十年前に亡くなった藤田まことさん演じる中村主水が主役を務めて高い人気を得ました。藤田さん亡き後は、ジャニーズの東山紀之さんが中村主水を彷彿とさせる八丁堀同心渡辺小五郎を演じており、毎年のようにスペシャルドラマが作られ、高視聴率を獲得しています。
内容はご案内のように、一貫して勧善懲悪のハードボイルドです。 法や権力の壁に阻まれて裁かれることのない極悪人を、お金で被害者の依頼を受けた「仕事人」たちが、それぞれの個性ある奇抜な方法で暗殺したり懲らしめたりするものです。
この世の正義を貫くのが「仕事人」というプロの暗殺者であるという矛盾が、人々の心の憂さを晴らしてくれる魅力になっているのではないでしょうか。
先行き不透明で不安を感じる世の中ですが、好きな映画や面白いテレビドラマで「スカッと」して明日への活力を養いたいものです。

 ネット社会に思う  令和2年6月
SNSとは、スマホやパソコンによりインターネットを介して人間関係を構築するサービスのことだそうです。国や地域の壁を越えて、あらゆる分野で多くの人々と交流出来る素晴らしい文化です。
今の閉塞した社会情況の中、小衲もユーチューブの動画などで大いに癒されています。
しかし、しばしば話題に上がるように、SNSを通じて個人への批判や中傷が、時には個人の尊厳を否定したりプライバシーをも無視したりして行われることは、本来あってはならないことだと思います。表現の自由は個人および出版や報道などに認められた権利ですが、これを自分勝手な自己主張がまかり通ることと勘違いしてしまっては本末転倒です。
おびただしい情報が氾濫している現代社会であるからこそ、確たる証拠もなく、ただ感じたことや勝手に想像したことをSNSという公共の場で無分別に発信することは、厳に慎むべきであると考えます。
互いに一人の人間であることを思いやり、価値観や考え方を受け入れ合える社会になるよう努力することが大切でありましょう。

 心に応援歌を 令和2年5月
 NHKの朝の連続テレビ小説は、作曲家の古関裕而さんの物語です。夏の全国高校野球選手権の大会歌「栄冠は君に輝く」や読売巨人軍の「闘魂こめて」・阪神タイガースの「六甲おろし」、早稲田大学の「紺碧の空」を初めとする多くの大学や高校の応援歌、更には東京五輪の「オリンピックマーチ」やNHKのスポーツ中継のテーマ曲を作曲した人として知られています。
 戦前・戦中・戦後の激動の時代の中で、幾多の人々が彼の作曲した応援歌を人生の支えとして困難に立ち向かい乗り切って来たことでしょう。図らずも新型コロナウィルスの感染によって、多くのスポーツが開催することが叶わず、全国中学・高校総体も史上初の中止となり、夏の甲子園も開催が危ぶまれています。
 こんな時だからこそ、人生の応援歌を高らかに歌いつつ心を奮い立たせ、頑張って難局を乗り越えたいものです。

 志村けん逝く 令和2年4月
 先月末、タレントの志村けんさんが、新型コロナウィルスによる肺炎のため亡くなりました。
 親子三代にわたるファンも少なくない国民的人気者で、心と体を張ったコントで、長年全国のお茶の間にお腹がよじれるような笑いをもたらしてくれました。
 プライベートでは意外にも寡黙で常に周囲に気を遣う性格だったとか。まだまだこれからなのにと感じさせる七十年の人生の中の約五十年間を、お笑いタレント志村けん≠ニして精一杯使い切り、生命を振り絞ってとことん生き抜いた人生であったと思います。
 大勢の人を明るい気持ちにしてくれただけでなく、最後に新型コロナウィルスの恐ろしさを全国の人々に強く知らしめてくれた彼の功績は、ある意味菩薩行とも云える尊い人生だったと感じます。